外岩シーズンがやってきましたね!コンディション整えて最高のシーズンをお迎えください。
さて、今回は「擦り傷」「切り傷」処置の基本です。
1.消毒は不要
かつては「まず消毒」というのが常識でした。しかし、アルコールやヨードは殺菌効果を有する一方で、健常な細胞まで障害し、傷の治癒を遅らせることが知られています。世界で最も権威のある医学雑誌NEJMの総説(Singer, 2008)でも一般的な創傷に対して消毒は推奨されておらず、流水による十分な洗浄が最も重要です。
2.乾燥ではなく湿潤環境を維持する
「かさぶたを作って自然に治す」という従来の考え方は、実は治癒を遅らせ、瘢痕も残りやすいことが明らかになっています。湿潤環境を維持すると疼痛が少なく、創面がきれいに治ることも多くの臨床試験で示されています。創面は適切な被覆材で覆い、乾燥させないことが原則です。
3.被覆材の種類と使い分けについて
被覆材は「創傷を乾燥させない」ためのものであり、滲出液の量や部位に応じて選びます。貼りっぱなしではなく、1日1回は観察し、汚れたり剥がれたりしたら交換してください。クライマーは生傷絶えないので、自分の好みのもの数種類家に買い置きしておくことをお勧めします!個人的には、現地では洗浄後(1)、家に帰って(3)か(5)というパターンがほとんどです。
(1)一般的な絆創膏:浅い擦過傷や小切創に。最も身近。乾燥はしやすい。
(2)フィルム材(オプサイト、テガダームなど):滲出液が少ない浅い創に。透明なので観察はしやすい。
(3)ハイドロコロイド材(キズパワーパッド、ケアリーヴ 治す力など):滲出液の多い擦過傷や浅い潰瘍に。滲出液を吸収すると親水性ゲルになり、創面に固着せず湿潤環境を維持できる。疼痛も少ない。柔軟なので凹凸のある部位にもフィットしやすい。
(4)アルギネート材(プラスモイスト ヘモスタパッドなど)やハイドロファイバー材:滲出液が多い創に。吸収性に優れ止血効果もある。
(5)ガーゼ+ワセリン:固着を防ぐ。ガーゼは非固着性のもの(ガーゼにフィルムがついている。デルマエイドなど)を使用する。
ちなみに私が春先に岩場で転んで鼻の下を派手に切ったときは、傷が残らないか心配しましたが(5)くっつかないガーゼ+ワセリンでキレイに治りました!
4.縫合や特別な処置が必要なケガの場合は、迷わず医療機関を受診してください!
〇圧迫しても止血が得られない
〇皮膚の離開を伴う(寄せても傷口が自然に開いてしまう)
〇皮膚が部分的に剥がれ、まだ一部が創面にくっついている状態を伴う
〇関節に及ぶ深い創、筋膜や脂肪層が露出している
〇顔など整容上重要な部分
〇汚染が強く、十分な洗浄が難しい
〇ガラス片や砂利など皮下異物が疑われる
〇爪の下の皮膚(爪床)損傷 など
以上、簡単にまとめました。対処は自己責任にてお願いいたします。すべてのケースに当てはまらないこともありますので心配な場合は必ず医療機関を受診してください。
参考文献
1)Singer AJ, et al. N Engl J Med. 2008;359:1037-1046.
2)Junker JP, et al. Adv Wound Care. 2013;2:348-356.
3)Nuutila K, et al. Adv Wound Care. 2021;10:685-698.
4)Trott AT原著. 岡 正二郎監訳. ERでの創処置 縫合・治療のスタンダード 原著第4版. 羊土社;2019.
5)Minnesota Department of Health:Summary Guide to Tetanus Prophylaxis in Routine Wound Management
No responses yet